ものづくり
~人の立場にたって、物事を考えること~

ものづくりの心

画像:写真AC

わたしは仕事柄よく旅をします。これは北陸に出張したときのお話。 日本海側を通っている北陸本線の車内でのことです。

少し前の大河ドラマ「利家とまつ」の舞台となった、加賀百万石の平野を走っている時でした。

お弁当

ちょうど昼になるころ。弁当売りが入ってきました。
おなじみの「お弁当にお茶はいかがですか?」とくる、あれです

前から友人に「北陸を旅行したら、汽車弁を食べてみろ。おいしいぞ~」 と、言われたことを思い出し、通りすぎようとしている弁当売りを呼び止めました。

わたしの声が、あまり大きかったのと、慌しかったのでしょう。
隣にいた老紳士がつられて、わたしにも1つ、と弁当を買いました。

わたしは友人に言われたこともあり、どの程度おいしいのか期待もあり、早速あけて食べ始めました。

加賀で取れた加賀米に、日本海で取れる小鯛をあしらった押し寿司風の弁当でした。

思いのほかおいしかったので夢中で食べていました。

わたしにつられるように、隣の老紳士も食べ始めました。

1口か2口食べた老紳士は、あわてて弁当をあら包みに包むと席を立って
どこかに小走りに行きました。

「やっぱりだめでした・・・」
と、わたしに話しかけるのでもなく、独り言でもなく戻ってきて言うと、
また、老紳士は食べ始めました

やがて・・・

やがて、弁当も食べ終わって、お茶を飲みながら隣の老紳士を見ますと、

半分だけきれいに食べると今度は、丁寧に包み、大事そうにかばんに入れました。

ああそうか、もう1つ買いたかったのだ!
一口食べておいしかったから旅の安否を気遣いながら、待っている家族にもこの味を味あわせたい。あわてて買いに行ったが、ときすでに遅し、売り切れていたのだ。

それで、「やっぱりだめでした」だったんだ・・・

お茶をすすり、窓の外の流れる景色を見ながら、この老紳士が家について、旅装をとく姿が思い浮かびました。

旅装をときながらお茶の間に半分の弁当がおかれ、

「実はもう1つ買おうと思ったけどだめだったあまりおいしかったから半分もってきたよ」
と会話が出る光景を思い浮かべて、わたしは、この老紳士の人間味というか、人柄というか、心のあたたかさが、ひしひしと伝わってきました。

そして、この人への思いやり、人の立場にたって、物事を考えることこそ、ものつくりの原点だと思いました。

わたしは真心を込めてつくった製品をそのまま、心を乗っけて相手まで届けたいと思っています。